はじめに


 
       我が国は二度の奇跡を成し遂げた。一つは明治維新であり、もう一つは戦後の復興である。
      これら二度の奇跡を成し遂げたからこそ、現在の日本があるのであり、豊かな生活が存在する
      のである。そして、その奇跡の原動力となったのが石炭である。明治期から昭和30年代に至る
      まで、間違いなく石炭は我が国のエネルギーの主役であった。                                                           
        しかし、その後のエネルギー革命の進展によって石炭はその地位を追われ、数多くの炭鉱
      が閉山に追い込まれ、多くの失業者を生み出した。現在、国内に残る主要炭鉱は僅か一カ所。
      かつての花形産業の面影は微塵もない。
        では、石炭はもはや過去のものなのであろうか。石炭は我々の前から姿を消したのであろうか。
        答えは否である。
        現在、我が国の一次エネルギーに占める石炭の比率は19%に迫ろうとしている。その量は
      約1億3千万トン。これは、国民一人一人が年間1トンの石炭を消費していることになる。そして
      その石炭の大半が海外からの輸入に頼っており、我が国は世界最大の石炭輸入国となっている。
        では、我が国ではもう石炭は採掘できないのであろうか。
        この答えも否である。
        一説によると、我が国に埋蔵されている採掘可能な石炭は8億トンにのぼるという。例えば国
      内炭自給率を15%とし、年間1500万トンの石炭を採掘しても50年以上もつ計算になる。しかし、
      我が国の多くの炭鉱は採掘コストがかさみ、そのため、海外炭との価格差は3対1以上にまで広
      がってしまった。この価格差が命取りとなり、石炭自体の需要は伸びているにもかかわらず、国内
      炭の需要は激減するという皮肉な結果を招いた。すなわち、我が国は経済性を理由に国産資源を
      放棄し、資源の供給先を海外に依存しきる道を選択したのである。
        一概にこの選択が間違っているとは言えない。石炭の供給側が赤字の炭鉱を閉山し、石炭の
      需要側が安価な海外炭を使用するのは企業として当然の判断であろう。我が国の石炭産業が崩
      壊してしまったのは経済的に見て必然のことだったのかもしれない。
        しかし、見方を変えてみると、石炭産業の崩壊は我が国の一産業が海外の産業によって壊滅
      させられ、我が国の資源市場が海外資源によって席巻されるという、「資源戦争」での敗戦を意味
      していることを忘れてはならない。その敗戦の結果、我が国は生殺与奪の権を資源産出国に完全
      に握られてしまったのである。すなわち、石炭問題は純粋な経済問題として割り切れるものではな
      く、外交、ひいては国家安全保障につながる重要かつ高度な問題だったのである。
        しかし、我が国は石炭問題を単なる経済問題、あるいは失業対策等の福祉問題として捉えてき
      た。その結果、国の行った政策は石炭産業の安楽死政策であり、閉山対策であった。そしてその政
      策は石炭問題を国家安全保障問題として捉える姿勢も、国内石炭産業を存続させようとする姿勢
      も希薄なものであった。この政策が、石炭産業を崩壊へと導いた大きな要因であったことは否定で
      きない。
        しかし、責任は国にのみあるのではなく、業界側にも存在していることを忘れてはならない。終
      戦後、国は石炭産業を経済復興の要として位置付け、手厚い保護を行ってきた。その結果、国の
      保護に浸かりきった石炭企業は合理化等の自助努力を怠ることとなり、その後訪れるエネルギー
      革命に対処できなかったのである。また、労働者側も、時として過剰すぎる争議を展開して合理化
      に反対し、あるいは争議の場に政治思想を持ち込み、事態をより深刻化させることもあった。
        このように、国・企業・労働者それぞれの問題が石炭産業を崩壊に追い込み、前述した「資源戦
      争での敗戦」を招いたのである。
        これまで記してきたことを見ると、石炭産業の崩壊というものが非常に複雑で、そして広範な分
      野にわたる問題であったことをご理解頂けるだろうか。すなわち、石炭に軸足をおいて周囲を見渡
      すと、主に企業の活動に関する経済問題、国の政策に関する政治問題、失業者対策に関する福祉
      問題・・・・と多くの問題が見えてくるのである。まさしく、石炭産業の崩壊は我が国が抱える問題の
      「集大成」と言えるのではないだろうか。
        石炭産業崩壊の歴史、そして「資源戦争」に破れた我が国の現状を一口で語ることは非常に困
      難である。わが日本石炭公団は私が全国で撮影した写真、実際に読んだり購入した文献、各種サ
      イトや文献を元に作成した資料等を掲載している。
        当サイトが皆様のご理解及び各種研究の一助として頂ければ幸い甚だである。




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