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雨が、降りそうだった。空気が重い。 いや、重いのは、彼の心の中の空気の方かも知れない。 逃げるようにあの場から走り去り、 飛び込むように翠の草原の中に転がり込み、 難渋の叫びを悶えながら、荒げ、上げた。 そして、眠りに就いた。 ぼんやりと、ああ、そうだったと、チノは思い出した。 それから膝を立てて座ると、セトの白く太い首に腕を回した。 手は血塗れのままだ。だが、セトは拒まなかった。 暖かい。それも、とても。 チノはもう一度、彼という愛馬に礼を言った。 「ありがとう…あり、がとう、セト」 訳も分からぬまま何度も何度も礼を言っていたら、その内また、涙が溢れてきた。 何故かとは思わなかった。 「あ、り、がとっ、…っ!!」 これだけ泣いたのは、母が死んで以来のことだった。 感謝しながら泣くのも、初めてのような気がする。 色々な感情達が混ざり合って、その全てが、涙になっていく。 チノにとってその号泣そんな感じだった。 白んだ意識の片隅で、そう感じた。 「帰ろう、セト」 いつしか日は昇り切っていた。 たてがみや体の毛並みを少し整えてやってから、その背に跨る。 腿を締めると、セトはいつも通り、いや、いつもより勢いよく、走り出した。 頭に残っていることが沢山あった。 が、考えないようにした。 掌も剣も、見ないようにした。 (あれ?) しかしいざ手綱を握った手を目にしても、何ともならない。 赤褐色を見ても涙は溢れてこない。 チノは、冷静なままでいられた。 安心する一方で、身震いした。 何故かは大体分かる。分かるが、また、考えないようにした。 セトを、走らせる。 風を斬り裂き、走る。 今はただ一刻も早く、 自分のゲルに、自分の父に、 自分の幼馴染である少女に会って、言葉というものを交わしたかった。 それが今の自分の望みだと分かった途端にまた流れてきた彼の涙と彼は、 少量の雨にまぎれて、見えなくなった。 憎悪。哀感。後悔。 哀愁。寂慮。羨望。 その全てがこの雨に洗い流されていくように、彼は、草と太陽に祈った。 そんな思いもまた、次第に、見えなくなっていった。 どこかの群れの羊が、めぇ、めぇと、のんびり鳴いていた。 五月の芽吹きを食む彼らの傍らで、川がせせらいでいた。 この世界は今日も青く、白く、ただただ、広大な緑ばかりだ。 --- おわり --- 帰 前 --- あとがき --- 書き終えたのはもう少し前だったのにルーズリーフに書いた文があまりに長すぎたため テキスト打ち込み→アップの作業が大変長たらしくなりました。チノです。 チノというのはモンゴル語で狼という意味だそうです。 知らぬ間に皮肉ったような小説を書いてしまったなあとか思いました。 彼の曲を初めて聞いたときから大好きになったので書き始めました。畜生wacめ!wakkの分際で!(…。) なので当然イメージした曲は『怒れる大きな白い馬』になります。 最後の文は後でshioさんのコメントまんまだという事に気付きました。やーん。 思いの外 長くなってしまったのでびっくりです。 いや、長くなるだろうとは思ってましたがここまで長くなるとは… (私的には長い部類に入るんです、これでも;/あとがきも長め) チノが抱いた感情をはっきりと書き出してやれなかったのが心残りだったりなんだりかんだりします。 それ以前にごちゃごちゃしすぎですな。…要精進…_| ̄|○lll しかして書いてて打ち込んでてとても楽しかったです。 ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。お疲れ様です。 04.05.26. セトの名前の由来が赤兎だということは言うまでもありませんな。 勿論 仮名です。話の都合上勝手に命名しました。 |
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