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ある晴れた日、屋外はうららか。 こもり、よどんだ空気が停滞する室内にいるより、 外に出よう。 晴れていなくたって傘もなしで外に出そうな男、御津闇慈は 今日の宿を出発した。 ___________________________________________ 鉢金 ___________________________________________ しっかし、春でもないってぇのに。 気持ちがいいほどの麗らかさだな? 風雅を意識してか、せずか―いや、してるつもりは断じてないんだがなぁ。 ―何にしても、いつもと同じ服装に、同じ扇子で、宛てがあるようで無い、放浪の旅の途中。 明らかに用は無いだろう草原に、俺は足を向けた。 曲がりくねった道は東から昇ってきて、間もない― 産まれたての太陽に照らされて、 黄色い砂の一つ一つが道に転がっているのが、しゃがまなくたってよく見えた。 壊滅する前の日本にも―少なくし、そしてまた増やしていった自然があった。 まだ幼かった俺はここのような草原で誰かとじゃれあって、くすぐりあって、転げてたけど。 あの頃の俺と変わった気は、あまりしない。 初めて見るはずの草原に既視感を覚えて、脳裏を巡るは回想シーン。 今では、その誰かが生きているかさえ分からないことも、思い出す。 どっちかというと、ここみたいにぼうぼうに生い茂ってるんじゃあなくて、 青々とした芝生が果てしなく続いて―みたいな、感じだったかな? 果てしなく続いてる、って辺りでは 今 目の前にしてる方のが、真実味があるんだが。 幼心には、あの小さな草むらでさえ広かった。 そうやって なんでもない草の海の中に分け入って感傷に耽っていた俺の目に、 思いがけないものが映った。 炎の燃える赤のような色のジャケットは以前にも見たことがあるものに似ていたが、 以前のそれよりも少し布が多い。 胸元のベルトは無くて、羽織るだけのタイプのもののようだ。 左右 対になっている短いベルトが、重力に逆らわず 下の方に垂れている。 多少布が多くなったにしろ、やはり短いジャケットの下には 黒いタンクトップではなく―色は同じだが― 白い、クロムハーツだか、なんだかの―そんなデザインの、十字架付きのもの。 クロスしている部分には、これまたベルト。それぞれ、用途は無さそうだが…。 大きめ、白のホットパンツに太ももにベルトが二本。 ―あ、ちょっと虫がくっついてら。 色は赤と黒だけの、シンプルなデザインの革のブーツ。 それに紅の鉢金に、茶色い髪。 あれを後ろから引っ張るのは面白いんだよなあ― ―似合わない、長めのポニーテールが草の上に投げ出されて、 風がそよぐごとに草と擦れ合っている。 これらだけは、いつも同じタイプのもののようだ。 傍らには、最近ではあまり見ない直線的な印象を持たらす剣―封炎剣。 ―――あらら? 「…まっさか、あんたがこんな所で寝てる …なんてぇなぁ…」 心底、驚いた。 偶然、ふらりと立ち寄ったこの場所で―だだっ広い草原のど真ん中で― この男が、昼寝なんてものに興じているとは、思いもしなかったからだ。 ―昼寝ではなくて、夜通しのものかもしれない。 そもそも後についていたわけでもなんでもないのだが、 普段の形相、口調、気性からは想像がつかないような、この無防備な寝顔を見てしまうと、 何故やら 罪悪感が沸いてくる。 いや、そもそも俺にそんな感情があるのかさえ疑わしいんだが、 ここはそう言っておこう。 言っておいたところで、せっかくだから この男―ソル=バッドガイを観察することにした。 ―意外に、大人しいもんなんだな。 傍まで寄って覗き込み、俺はついそんなことを思った。 確かに寡黙な奴だが、イメージ的に寝ているときは 大きないびきなんて立ててそうだったのに、 いびき一つ立てず、身じろぎ一つせず―寝息は、静かだ。 それに余程気持ちがいいのか、頭の後ろで組んだ手から手前に引いて、腕、 その間にある顔は安らかそのものだ。 いつもきっちりとつけている鉢金などは、なんと半分以上もずれている。 ―さて、この鉢金だが― 俺はずっとこれが何なのかが、気になっていた。 闘うときだって物を食べるときだって、見た所寝ているときだって外そうとしないのだ。 左右、対に開いた穴は三つずつ。 そして頭に巻きつくベルトが二本ずつ飛び出ているが、 縦に並んで伸びたそれはすぐに一本にまとめられて、 頭後ろにでもあるのだろう、金具の元へ。 見る者の目を惹き付けるのは、そんな脇目のものではなくて、 紅の額当てだ。 『Rock you』と粗雑に刻まれているそれの素材が一体なんなのかなんてことは 俺には想像もつかないが、硬いし、丈夫であることには間違いはない。 丈夫なことは以前 あの男を捜しているときに闘ったときに分かった。 硬いということは今触れて調べてるからだ。明確単純。 熟睡しているようだから好き勝手できるわけだが、 起きたときは見ものだな―って、俺は実行犯なんだから見られる側だ。 ひんやりとしたそれは鉄のようだったが、 長四角の端々は丸みを帯びていて、男の額を傷つけずぴったりフィット。 ―じっと傍で見ていて、気付いたことや、俺として思うことがいくつか。 両辺の六つの穴はそれぞれ、指の先が入るくらいの穴のでかさ。 世界に古来から出来ていた遊戯、ボーリング―とかいうやつの、玉みたいで。 側面を見ると、僅かにだが、鉢金は二枚の板の組み合わさったものだという証の、影があった。 そしてこれらの事から俺が考えるに このヘッドギアは 開く。 絶対に開く。 開くと言ったら開く。 俺様が開くと言ったら開かなきゃ許さねえ。いや許すけども。 箱状になっているようにしか思えなくなってしまったそれの中には、 一体何が詰まっているのか― しかしそれを明らかにしようとすると、流石に起きてしまうのではないか。 こうして見ているのに起きないことでさえ、きっと稀なことなのだ。 いつの間にか、日は頂点に近付き始めていた。 春でもないのに、暖かで爽やかな風が、草と俺の髪、青い振袖と旦那の髪とを揺らす。 さっきよりも明らかになった赤い四角に、溢れそうだった思いがついにこぼれた。 我慢しようと思っていたが 我慢のしすぎは身体に悪い! 旦那もこれっくらいなら殺すとか言ってきたりはしないだろ―多分。 「ご開帳ーっ!」 ぐっ、と脇を締めて 手を、何かを鷲掴みするような形にして 両手の指三本ずつを、俺は鉢金の左右の穴に指し入れた。 ―驚くほどあっさりと、鉢金はその中身を露わにした。 表側は簡易な蓋状になっていたのだろうか―に、しても簡単すぎる。 だがそれより何よりの問題は、その中身だ。 俺がRock youの蓋を開いて、目にしたもの― 四角い箱いっぱいにつめられた、カラフルな円形たち。 なんなのかは分からないが―とりあえず、爆弾だとか、火薬だとかではなさそうだ。 手にとって匂いを嗅いで見ると―――甘い、香り。 どこかで、何度か―何度も。覚えのある香りだ。 まさかと思い、俺はそれの内の一つ、黄色いのをつまんで、口に放り込んだ。 「………ちょこれぃと?」 下から口内に広がっていくそのとろりとした甘みはまさに俺が口にしたそれだが、 どうにも信じ難かった。 何故 ソルの旦那の鉢金にはチョコレートがこんなに詰まってるんだ? 「…てめえ…何してやがる…。」 「…あー。」 炎の魔人が、頭についた葉っぱを面倒くさそうに取り払いながら、 上半身を起こしている所だった。 蓋は置いていた場所から忽然と姿を消し、元の位置に戻されている。 ―――あちゃあ。起きちまったか。 「…性懲りも無く、尾けてやがったのか。」 やれやれ、というように、旦那が呆れた口調で言ってきた。 「そりゃまた心外な!男 御津闇慈、今回はそんなこたあしちゃいねえ… あ 」 ふと見ると 寝起きの機嫌の悪そうな表情で、ぼりぼりと頭を掻く旦那の手には、 額に巻いてあった鉢金と同じものがもう一つ。 「こっちは、単なるレプリカだ。」 一瞬、風がざあっと吹き抜けた。 俺の心内を見通すように、旦那はそう言って、ぱらりとベルトを解いて、 手にしておいた方を頭に取り付けた。 ―つまりは、偽者ってことかい。 額の紋章が目に入っても気付かないまま、俺は暫し放心状態に陥った。 「っと。」 ぼすっ、と 突然投げてよこされたのは、偽者の方のヘッドギアで。 受け取った瞬間、中のチョコレートたちが、じゃらりと鳴る音が聞こえた。 「やる」 軽いショックのおかげで呆けていたうちに、相手は既に身を整え、立ち上がっていた。 いつも、こんなに強い風なんだろうか。 靡く赤茶の尻尾は翻り、草原の中を進み出した。 「…いーのかよーう?もらっちまってもー。」 俺に声をかけられて、そのリズムは一度止まり、振り向いて。 「どうせガラクタだ。―また、盗み食いされてもたまらねえからな。」 またすぐに作れる、とでも言わんが如く口調でそう言うと、笑った。 そして、また進み始める。 貰ったレプリカの鉢金の蓋を開けもって、カラフルなチョコレートの中の、 今度は青色を口に放り込んで、噛み砕く。 それからまた蓋を閉めると、首にかけてから、固定した。 甘ったるい香りと味とがまた、すぐに口の中に広がっていく。 「なあ、旦那。聞いてもいいかい?」 「なんだ。」 「なんだって、チョコレートなんてもの入れてたんだい?」 そう遠くない果ての辺りで、走り出す後姿と、翻るポニーテールと その一つ向こうに、小さな民家とが見えた。 「逃がすかぁ!!」 結局―堂々と、だが―尾け回すことになりそうだ。 ソル=バッドガイという男とめぐり合えて、 楽しくなりそうな道中 騒がしくなりそうな道中 そいつら、これからちょっと先の未来が― ――目に 見えるようだ。 _____________________________________________________ あとがき 友人、寧ろ親友、氷狩陸 父上様によってもたらされた 『ソルの旦那のヘッドギアの中身は実はマーブルチョコ』 ネタに因り書かれました今回の一作。 キャラは希望により御津闇慈さんですか。貴様を連行する。 ギア抑制装置の中身がチョコじゃまずいだろってことで 取り合えずレプリカにはしておきますたが。 チョコレートを食べるとギア細胞が抑制されるって考えもあったかも(いいえ) ポリフェノールやら何やら、お役に立ちますねチョコレート。 何故かspitzのチェリーの歌詞と雰囲気がそこかしこに見え隠れしていますが それは多分父に頼まれてspitzのCDをMDに録音をしていたからです。 こいつらにはありえないだろというシーンを書くのも好きでつ。 そして実を言うと月花氷人掛参の昼間だったり。 氷狩 陸(お父ん)に捧ぐ 03.08.21. |
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