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_______________ ポピー _______________ 木の机のすぐ隣にある窓の外に見え 聞こえるのは、 月に照らし出されて青白く光る雲や、とめどないプロペラの音。 宿主であるディズィーは眠っているが、 ネクロにとってはそのときこそが活動時間帯であった。 家事を手伝うウンディーネは器用でいいと、彼は思う。 それが出来ない性格の自分は、最近ではこうして宿主とあまり関わり合いの無い 真夜中に目覚め、静かに行動することにしている。 とはいえ、タオルケットを被って、可愛らしい襟付きのパジャマを身に纏い、 幸せそうな寝顔をしているディズィーの安眠妨害をするわけにはいかないので、 その場を動くことは出来ない。 一晩中起きていてすることといえば、 窓や扉が開けっ放しであればきちんと閉じてやったり、 布団をかけ直してやったりと、それ位のものだ。 残りの時間は、考え事をするか、やっぱりすぐに寝てしまおうと身体の形状を小さな翼に戻して、 ディズィーの背中に潜り込んでしまうかに限る。 さて今日の考え事だが、これはまた彼らしくないと言われても仕様が無いような内容であった。 ネクロ 本日の一人議会議題『抱き枕』。 ふと、ディズィーが胎児のように丸まって寝ているのを見て、 同じように眠ってはいたが、彼女と違い、その小さな体躯で 自分と同じくらいの体長をしたイルカのぬいぐるみに抱きついて―…しがみついているように、 見えなくもなかったが―床に就いていた、少女のことを思い出した。 いつもこの船の艦長についてこと喧しく喋り回るわ、暴れ回る、小さな副艦長のことだ。 毎朝 彼女を起こしに行くと、大抵そのイルカはしわくちゃになっている。 そう、それは彼女の怪力によって。 あれがあれば、もっと安心感を得られ、ずっと気持ちよく眠れるのではないだろうか。 近頃は大分マシになったが、ディズィーは寝つきが悪い。 以前の生活を考えれば、致し方がないことだ。 死神の鎌と技を操る男と出会う以前など、もっとひどかった。 たった一人、温かい暖炉も、柔らかい布団も、羽織るものも無く 孤独に闇の中に意識を落とす。 そしてその眠りはやはり浅く、彼女の疲れを完全に癒せるものではなかった。 新しい生活には、以前と違った疲れもあるだろうと、ネクロは宿主を不憫に思った。 彼は、何かその『イルカ』の代わりになるものが部屋にないか見渡して、探したが、 月明かりだけに照らされた薄暗い部屋の中には、そんなものは見当たらなかった。 今 身体にかかっているタオルケットでは厚みが足りないし、そもそもそれを使用してしまうと、 ディズィーの身体が冷えてしまう。翌朝彼女は、腹痛に悩まされることになってしまう。 枕は全長が足りないし、机の上やクロゼットの上に置かれている、 ディズィーが他の団員達ににいくつかもらったぬいぐるみなどは、小さいものばかりだ。 さてどうしたものかと考えている内に、ネクロはもう一つ思い出した。 自分も宿主と同じく、寝つきが悪いのだ。 考え付けば最後、もう片翼のウンディーネよりも自己中心的な精神構造をしているネクロである。 安眠のために必要な『イルカ』―…『抱き枕』を自分のために探し出す。 だが、ディズィーのためのものが見つからなかったのだから、当然、彼のためのものも見つかり得ない。 ネクロは不満そうに、フードに隠れた眉根の辺りを潜めた。 (…ム?) つと、ネクロは扉が小さく開く音を聞いた。 ディズィーの部屋に一つだけある戸の方に顔を向けると―… わずかに、開いている。 ネクロは、警戒を始めた。 扉の開き方から、侵入者は小型であると検討をつける。 部屋全体に神経を張り巡らせ、念のため迎撃態勢をとる。 以前ディズィーが台所え遭遇した黒光りする『あれ』ならば、 追い出してしまうだけで済むのだが。 気配は暗闇に溶け込んでおり、中々その姿を見せない。 一体、何者なのか。 物音どころか、足音の一つさえ立てない気配に対しての警戒心を、 ネクロが一層強めた、そのときだ。 「にゃあっ!」 「…ウオッ!?」 ぼすっ。 ―可愛らしい鳴き声に、柔らかい黒の体毛。 染められたのか、真っ黒な身体に映える、白い頭の癖ッ毛の一房。 うれしそうに長い尾をゆらゆらとさせて。 副官と揃いの赤い帽子は、今夜は被っていない。 闇に光るのは、桃色を帯びた赤い瞳。 「………じゃにす?」 「にゃ!」 人外であるネクロの声に爽やかに返事をすると、ジャニスはぬくもりを求めるように 乗ったままの膝に身を摺り寄せた。 そういえば、おぼろげにしか覚えていないが、 女性クルーの誰かが「お昼になったのに、ジャニスを見かけない」と ディズィーに言っていたことを、ネクロは思い起こした。 (―…危ウク、消シ炭ニスル所ダッタ…。) 大体の人の形を成した翼の膝の辺りやら胸やら肩やらを鮮やかに歩き回るジャニスの無事な姿に、 また彼らしくないことに、ネクロはほっと胸を撫で下ろす。 迎撃にと準備していた、ガンマレイ出だしの細状光線の火種である掌の灯火を、彼は握りつぶした。 どうでもよい存在だったが、少々面白いので稀に観察していたこの猫も、 普段の活動時間帯は、昼間のはずである。 つまり今日は、いきすぎた昼寝でもしていたということだろうか。 言っても聞きはしないだろう、部屋の中を徘徊して回るジャニスの軍門に下りつつ、ネクロは思った。 そしてまた最後には自分の膝元へと帰ってきた黒猫に、ふと彼は考え当たったことを問う。 「…俺ガ、怖クハナイノカ?」 「…にゃ?」 何のこと? 間を開けた後、そう言うように、彼女は首を傾げるだけだ。 確かにギアが闘争本能・破壊衝動を及ぼすのは主に人間に対して、だが。 ネクロは、らしくない苦笑いを覚えずにはいられなかった。 そしてその愛らしい仕種に誘われてか――…彼自身も、驚くべきことに。 ネクロは、ジャニスの頭を、恐る恐るとだが、撫でた。 まだ成熟しきらない体は、折れそうだが、とてもしなやかだ。 「…にゃあ…」 滑らかな体毛を撫ぜている内、ジャニスは眠たそうに瞼をとろんとさせ始めた。 ――…そういえばもう、夜明けが近い頃か。 淡い白光を纏い始めた外の景色に、ネクロは思う。 「……にゃ…ぁ」 手の中の小さな獣は温かくて、なんとなく心地良い。 抱き枕としては全長も厚みも足りないが、 ゆらゆらと揺れる尻尾は、眠気を誘う。 赤く光る瞳は、採光を取りやめていた。 寝息を立て始め、整ったリズムで猫の背が動くのを、掌で感じる。 嬌痴な寝顔は、ギアである者の手の中にいながら、安心しきっていて。 ―――俺も、眠るか。 自分たちを怖がる者は一人もいなかった、馬鹿なクルーばかりの大きな船に抱かれて、 その馬鹿なクルーが一匹である ちっぽけな黒猫を抱いて、 異形の獣は、意識を快い闇へと落とし込んだ。 今夜は、随分と 自分らしくないことばかりをした気がする。 ああ、俺も随分と平和ボケしたものだ。 そんな、不慣れな、幸福の感覚に、自嘲を覚えながら。 その朝、ディズィーの片翼とパジャマとに黒い猫の毛が大量に付着していたことは、言うまでもない。 ●――――――――――――――――――――――――● あとがき ポピー Poppy =雛罌粟、美人草、虞美人草、コクリコ(coquelicot/仏)、芥子 花言葉:安眠、恋の予感、慰安(英)、休息、こころの平安、感謝(仏) マザー1+2のLV上げしつつ(…。)一朝一夕、寧ろ一晩で書き上げましたネクロとジャニスのお話です。 時計見てみたら一時過ぎてたので六時半頃まで寝てまたガリガリと書き綴り、 現在午前10時です。 txtに仕上げる時間も含めて六時間程度って所ですか。 …長い!長いよ!こんなに短い小説なのに遅筆過ぎるよ自分! ジェリーフィッシュに入団して変わったのはディズィーだけではないと思うと、 ああ、ネクロとジャニスってよく食卓とかで戯れてそうだな、という情景がぱっと脳裏に浮かび上がり。 どうやって書こうかな、と暫く考えていて、その結果がこれです。 どないやねん。 …俺は結構気に入ってますがw あ、因みにカップリングでもコンビでも可です(…。) ウンディーネはテスタと一緒に芋の皮とかむいでそうです。双方黙々と。 たまにボソッと喋ったりしてる横でディズィーはお料理したりなんだり。 …いや、ディズィーが昼寝中に、かな。 話し相手ちゃんは日向ぼっこしてそうです。 ディズィー周辺だけでなく、ジェリーフィッシュの生活にも変化が現れるでしょうな。 以前よりも魚料理や菜食料理を食べる機会が増えた、とか。 陸地に下りて食料調達ーという任務毎に ついでに魚も獲ったり木の実も採ったり。 …ああ、でも無益な殺生はディズィーにはしてほしくないなあw しかし良い感じなのでまたジェリーフィッシュ関連の話でも書くときに使ってみます。 …なんだか長い上に関係ないことばっかり打ち込んだ後書きッスね…(´∀`;) (どうして俺の小説にはいつも妙なオチみたいなものがつくんだろう/例:鉢金) 03.10.11. |
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