ぴこぴこという靴音が鋼の甲板に響く。

心地良い風圧と緩い雲の白が自然と僕の表情を緩ませる。
真っ暗な夜の星と月はきらきら綺麗で、僕に溜息を漏らさせる。

それから、そっとポケットの中に手を入れて、そこにある物の感触を確かめた。
手の中でころころとそれらを転がすと、自然と笑みが浮かんでくる。









Milky Milky










「もうやだっ、やだやだやだやだやだ!!」

「そう言われましても…」

「来ないでぇぇえっ!いるかさぁーんっ!!」



西暦二千百八十年、五月三日、英吉利、倫敦にて。
その日僕達は、行き当たりばったりで戦闘を始めたんだ。
なんでかってそりゃあ…
道を歩いてる途中、突然話してかけてきた相手が……

禿なんだ、って。

僕の感覚神経が叫んだから。
顔は紙袋で隠してあるけど僕には分かる。
あれの中身は禿。絶対禿。何がなんでも禿、禿禿ったら禿!!
それに、なんだか見たことのある奇天烈な技の数々―










一年前の、第二回聖騎士団団員選抜大会。
次元牢とまではいかなかったけど、捕まっちゃったジョニーのために
そう、僕の大好きなジョニーのために出場したあの大会。

そしてそれには禿がいた。

白衣を脱いだかと思ったらその下は少し中国風な服の上に軽そうな、部分的な甲冑。そして禿
ほぼ露出した生足。そして禿
大分上を見上げないとその顔を確認出来ないんだろうけど、
その禿の構えは姿勢がとても低かったから禿頭が嫌でも目につく。
禿は、身長ぐらいあるメスを振り回してた。的確に僕のいる場所にその刀身を向けてくる。


気でも違ったみたいに明るい笑い声を上げながら闘ってるその禿に、
僕は…負けちゃった。


身体中が傷だらけで、血まみれで、熱い。心臓のあたりがマグマみたいに溶けたみたい。
このまま殺されちゃうのかなって思いながら甲板の上に倒れてたら、
その禿のやつ、僕のことをじっと見てから、突然狂ったように叫び出したんだ。

血が止まらない、とか。
早く止めないと死んでしまう、とか。

禿頭を抱えて苦しそうにうめきながら、その禿はそのままどこかへ行っちゃった。

僕はぽかんとしてるしかなかった。

エイプリルと、ジュンと、セフィーと、オクティ…みんなが駆け寄ってきて―
僕はそのまま、気絶しちゃったんだった。
一番に助け起こしてくれたエイプリルは、泣いてたな。

それから僕は二日は目を覚まさなかったらしい。





禿との闘いって、何より疲れるんだって分かった。










そう、この紙袋さんのしてくる技はその禿にそっくりなんだ。

もっとも、僕のやることなすことを受け流すだけで、
仕掛けてはこないみたいなんだけど。

構えも同じだし、手に持ってるメスも同じ。
既視感があった。これは間違いじゃない、絶対にこの人は禿なんだ!

誕生日が近いからって物色に出てくるんじゃなかったぁ…。

「ぐるぐるあたーっく!!」
僕は錨と一緒にぐるぐるっと回りながら、相手の方に向かっていった。


がちゃ


「少々落ち着いて頂けませんかねえ?」

其処に無いはずの扉を開けて後ろに現れた紙袋さんは90度首を傾げて言った。
またこの技だ!禿のくせに〜〜ず〜る〜い〜〜!!

って

そんな場合じゃない!!僕は突風に煽られて、バランスを崩してしまった。
目下に広がるのは硬い冷たい石の床。
ばたばたと手足を振り回すけど同じこと。
つい手放した錨が離れた所にごすんと鈍い音を立てて落ちた。

落ちる!落ちる!落ちるー!!


いやぁーーっ!!




ぼすっ




「わっとと」



僕が落ちたのは

紙袋禿(推定)の腕の中。








いっ…やぁあああああっ!!!


僕はさっきよりも目一杯叫ぶと紙袋禿から離れようとして、滅茶苦茶に暴れた。
僕のぐーに握り締めた手が顎に当たったり足がお腹を蹴り回したりしてるけど
関係無い!!とにかく僕を離して、行かせて、自由にしてー!!
紙袋禿はというと攻撃に少し唸りつつも僕を離そうとしない。

「あ、あの、メイさん!危ないので大人しくして頂けませんか?」


名前を呼ばれて、少しの間ぴたりと止まる。
…おとなしく?




はっ!
もしかして僕をこのままさっきみたいな扉を使って連れ去って
あんなことやこんなこと







例えダンディでも禿はいやああああああああああああ!!!!


僕が頭を抱えてぶんぶん振ってからぶるぶる震え出すと、
溜息が一つ聞こえて、その後僕は石畳の上にそっと降ろされた。
女の子座りをしたまま腕の力を和らげて、今の状況に僕は目をぱちくりとさせた。

「確かに禿といえば禿ですが―ゴホン。…ほら、見えないんですから平気でしょう?」

紙袋禿が屈んで僕の方を向いて、自分を指差した。
僕はやっぱりぱちくりとするしかなかった。
…そっか。禿を見るのは嫌だけど、こうして見えないんだったら、別に平気なのかも…。
僕がこくんと頷くと、紙袋に一つ空いた穴の奥の光が、細まってみえた。
よく見ると暖かい感じさえする光なんだ。


「なんで、紙…おじさんは、僕に話し掛けてきたの?」

そうなんだ、突然話し掛けてきたんだ、この人。
素朴な疑問を投げ掛けると目の前の紙袋の中の光が二、三度瞬いた。

「いえね…その子が貴方を見つけた途端に騒ぎ出しまして。飼主の方かと…」

紙袋さんの指差した先には、
黒い尻尾を揺らしながらこっちにのんきに歩いてくる、前髪は白の黒い猫、ジャニスがいた。
壁と壁の間の薄暗闇の中じゃ見えなかったけど、
明るみに出ると、リボンや毛が少し土色になってた。

「ジャニス!」
僕は駆け寄ってきたジャニスを座ったまま抱え上げた。

「―ああ、ジャニスといいましたか。
その子が…その、罠に掛かっているのを見つけましてね。」
見てみると、ジャニスの右足には真っ白い包帯が綺麗に巻かれていた。
「おじさんが助けてくれたの?」
「いかにも。いやはや、ずいぶんと大暴れなさっていましたので予後は順調でしょう。」
「ご、ごめんね…ありがとう。」
僕が少し申し訳無さそうに言うと、紙袋さんはけらけら笑った。
よく見ると、紙袋さんの手には引っかき傷がたくさんあった。
顔が赤くなってるのが分かる。
原因の黒猫は、といえば僕の膝の上で気持ちよさそうに寝ころがってる。
…馬鹿ジャニス!


「では用事は済みましたし、私はこれで―」
「ストーップ」
僕は立ち上がろうとした紙袋さんの白衣の裾を掴んで引き止めた。
紙袋さんはバランスを崩して後ろ向きにこけそうになる。

「何かご用で?」
不思議そうに、くり、と首を傾げてきた。
そのままきりきりと、紙袋が逆さまになるまで。
僕は少しぎょっとした。

「僕、暇なんだ!ジャニスの怪我のお礼もしたいし、一緒に遊ばない?」
満面笑顔で紙袋の奥の発光してるもの―相手の眼のあたりを見上げながら言う。
「ふうむ」


「私はいっこうに構いませんよ。」

すっごく明るい口調で、返してくれた。








それから僕らは街に出た。
お金はジョニーに貰ってるおこづかいがあるし…喫茶店にでも寄ろうかな?
ジャニスは紙袋さんの頭の上に乗っかって、辺りをきょろきょろと見回している。

ふと人が通り過ぎた後目の端で捉えたものに僕は釘付けになった。

「ね、ね、あの店行こう!」

そう言って僕が指差したのは、オープンカフェ。
木の柵で仕切られてあって、丸くて白いテーブルやお花がいっぱい。

「…ええ、いいですよ。」
紙袋さんが少しだけ笑って答えたから、自分から先に、と僕は店のほうに走り出した。






―ああ…こんな所でジョニーと二人っきりで過ごせたら―

ミルク珈琲のティーカップを手にしたまま、僕はうっとりとしていた。



―でも 今 目の前にいるのは紙袋のおじさん、なんだよね。
…禿…なのは確実だろうけど…どんな顔してるのかなあ。
………もしかして凄いダンディだったり!?
ずっと敬語って所もそれっぽいし、そう言えば服装も…。
…でも…背が高いのはいいことだけど…高すぎってのも考え物だなぁ?

ブラック珈琲を紙袋の裾、手前から啜っている相手の方を見ながら、思う。

ジャニスはテーブルの上や床を行き交って、一生懸命に蝶々を追っていた。

僕もカップに口付ける。
それからオーダーしたショートケーキに手を伸ばして、ぱくんと一口。
甘い、甘〜い香りと味、ふんわりとしか食感が広がる。

「〜…美味しいっ!」

ごくん、と飲み込んでから僕はにぱっと笑って言った。
チーズケーキを食べていた紙袋さんがにっこりと―笑った気が、した。
…それから、ゆっくり頷いた。


なんだか、幸せ。





「メイ!こんな所で何してるの!?」


ガチャン。
ついつい力を込めて、カップを皿の上に置いた。


「エイプリル…君こそどうしたの、こんな所で?」
「どうしたの、じゃないわよ!もう出航時間がすぐそこよ!」
「え?…ああーっ!!」
闘う方に時間がかかりすぎてたみたいで、もう日は大分傾いていた。

「お帰りですかね?」
チーズケーキの最後の一口をぱくりと食べて、もぐもぐ噛んで、飲み込んで。
紙袋さんは首を傾げた。
ジャニスはまたその頭の上に乗っていて、落ちないようにしがみついている。
「うん…もうちょっとお買い物とか、付き合って欲しかったんだけどなぁ」
「まあ、皆さんに迷惑をかけるわけにもいきませんしね。」
知ってるって言うような口ぶりでそう言ってから、珈琲も優雅に飲み干す。

「…メイ。この人、誰?」
エイプリルはやっと気付いた、って感じでぽかんと口を開けて、紙袋さんを見上げている。
「え?うん、ジャニスが罠にかかってるとこを助けてくれて…えーっと?」
「私、医者をしております―ファウストと申します。」
「お、お医者さん…。」
聞く前に、またにこやかに答えられた。
エイプリルは呆然としてる。やっぱり変だもんね、紙袋も、この背の高さも。

ジャニスは気に入ってるみたいだけどね。


「エーイプリール!メイは見つかったのかー?」
入り口の方から、聞き慣れた、大好きな声。ジョニーだ!
「ジョニー!ごめんね、すぐ行くから!」
僕は席を立って、テーブルの上にお金を置いた。
それから先に行ったエイプリルと一緒に行こうとして

「メイさん」

引き止められた。


「何?僕、急がなきゃ―」
「どうぞ。」


ころん、と紙袋―ファウストさんの背丈にぴったりの大きな手から―
―比べたら、小さな僕の手に――手渡されたのは、
四角いキャラメルと一口の小さなチョコレートが、ふたっつずつ。

僕がぱちくりとしながらそれを見つめていると、
「メイ!早く早くー!」
エイプリルから急かすようにお呼びがかかった。

「差し上げます。」
ジャニスを僕に預けてから、何故だか嬉しそうな、楽しそうな声で言った。


僕は走りながら、くるんと一回転してみせて、ファウストさんに大きく手を振った。
「ありがと、ファウストさん!またねー!」












「ミルクキャラメルに…チョコレート。」
てくてく、ぴこぴこと歩きながら感触を確かめた後、小さく呟いてみた。
なんだかすごく不思議なんだ。
言ってみる、触ってみるだけで、夜と風の冷たさ全部撥ね退けて、暖かくなってくる。

魔法かな?

そう思ったりもしたけど、そんな様子はちっともなかった。
どんなに眺めたり、投げてみたりしても、何の変化も無かった。

光ってる星が頭上に広がってる。
線でぐるりと囲んでみると四角く見える星がいくつかあって、
ふと 紙袋さんのことを思い出した。
目の部分には、お月様。



「メーイ!晩ご飯だよ!」
「はーい!」

ごうごうという風の隙間から、リープおばさんの声がした。
今日のメニューは何かな?
リープおばさんの料理は、いつもすごく美味しいから、何でもいいんだけど。
僕は翼の上をぱたぱたと走って、飛空挺の中に戻る。




そういえばあのおじさん、教える前から僕の名前呼んでたけど、なんでだろう?




ポケットの中でキャラメルの包みがかさりと音を立てた。






甘い、甘いミルクキャラメルとチョコレート。

誕生日には少し早いけど。



ジョニーにも、内緒。

僕がもらったんだから。












「あ〜美味しかった!ねー、エイプリル!」
「うん!…あ、そうだ。ジャニスの包帯、巻きなおしてあげないといけないんじゃない?
さっきオーガスと一緒にお風呂入ってたし」
「あ、ホントだ。お〜いジャニス〜」
「ジャニス〜…ああ、いたいた って えぇっ!?
「じゃ、ジャニス?!どうしたのその足!!
毛が無いじゃないか!?」
「剃った…っていうよりは、粘着質なものに毛を抜かれた、って感じだね…これ。ほら」
「…ジャニス…どんな罠にかかったのぉ、アンタ…」
「あーあーあー、女の子なのに禿作っちゃって「
禿はいやー!!!!

夜空に響く断末魔。


―こうしてジェリーフィッシュ快賊団の、空の夜は更ける―




なんと!なんとなんと南斗!(水鳥拳か)
なんだか先生×メイに見えないこともない話が出来上がってしまいました。
当初は単なる先生がメイが闘って、それから飴だか何かをあげる、という
いわゆる「何が出るかな」の技ではないver、ほのぼのギャグ話だったのですが
段々書くのが楽しくなってきて、気付けばこの有り様です。
しかも何故か誕生日ネタまで含んでおります。
どちらかというと今からならベガ様の誕生日の方が近いというのに…
井上嬢の帰ってパパのミルクでも飲んでな云々の台詞に基づいて
ミルクキャラメルです。
いくらなんでも抹茶はないだろうとか(当然)
j時期としてはGGXの少し前の頃ですかな。

中身が禿であるとはいえ、家庭用GGXXのメイも落ち着くことが出来はしましたから
こんなのもありかな、と。
既存キャラの中では好きなコンビなのですが
やはりカップリングとしても十分通用するものですな。いい事を知った(何)

因みに最後のは動物のお医者さんネタですなw
蝿や鼠はよく取れるんですけど猫は…
哀れミケ。哀れジャニス。
とりあえず言いたいことは一つ!

アップするの恥ずかしかったです(阿呆)

そんな俺が銭形たいむ先生の漫画で嬉しがっているという事実は
言うまでもないことです。
メイもデンジャラスなお友達を連れてきたもんだ、と



03/04/13

そろそろ結婚適齢期??? 給料前でお金がない・・ あなたの悩み解決します
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