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「暇だ暇だひーまだー暇だったら暇だー!!」 「うるせえ、俺だって暇だよ!」 ________________ A penniless weekend ________________ ――…さて、どうしたものか。 俺様は、まるで音量を最大にしたスピーカーを何台か並べ立てた上、 その近くに音量増幅の床マイクがついているのかのように、 たまの日曜の朝から喧しく騒ぐ赤毛を 隣のソファに押さえつけながら、首を捻った。 「腹減ったー!」 ――ああ、そういえば朝飯も食べていないんだった。 昨夜、誰かさんたちが冷蔵庫の中にあった”使い道・喰い道のありそうなモノ”を 片っ端から使い込んでしまったおかげだ。 誰かさんたちの片割れに催促の電話も入れたが、連絡はつかなかった。 …バッくれやがったな、畜生。あの女豹め。 と、比喩したつもりだったのに、よく考えるとそのまんまだった。 行きつけのスーパーは、ここは亜米利加だというのに珍しい、 イエッサー・キリストさん(だったっけ?)の教えに従って 日曜定休日における安息と沈黙とを守っている。 こういう日は、友人が経営している店に行くのが筋 …なのだが。 生憎と彼は来週日曜まで、ワイフと欧州旅行中だ。 今はきっと仏蘭西の巴里、素敵なパリジェンヌやムシュー達と 有名喫茶店で朝の珈琲としゃれ込んでいることだろう。 昔から中々金を使おうとする奴じゃなかったから、いい機会だろう― って、それ所じゃねえんだった。 お金も無い、食い物も無い、やることもやらなきゃいけないことも 何にも無いこの状況下。さて、どうしたものか。 奴の所でならツケにしてくれるか、おごってくれるか、してくれるんだがなあ。 そんなことをしつこく考えている間にも、ソファの上で駄々をこねる彼女と、 意思に反した俺の腹の音は止まらない。 ――…そうだ。 「出かけるぞ。」 「は?…どこにだよ?」 素っ頓狂な、いかにも不機嫌そうな声を上げながらも、 パティの暴れん坊は今 初めて止まった。 「いいから、出かけるぞ。ちゃんと服着ろ。」 ここで一気に駆り立てておかないと、後でぐずつくのだから。 「へいへいへーい、わっかりましたよお犬様ー」 するとパティは、意外や意外、俺の言う事に素直に従った。 ――いつの間にか俺のクロゼットの中に忍び込ませた自分の服を、探しながら。 「どこに行くんだ?」 先ほど 現在の俺の住処であるMezon HOT ROCK101号室 (勿論、この部屋に決めた理由はアパートの名前からだ)でも 同じことを聞いたパティが、またそれを繰り返し聞いてきた。 別に、どこに行くかなんて決めちゃあいない。 空腹でも、外に出てみれば少しは気が紛れるだろう… そんな程度の考えからの行動だ。 ――しかしそんなことよりも、そもそも、それにしても、コイツは一体なんだ。 同棲も同然、当然の様にうちに入り浸って。 手前の面倒は手前で見ろ!と言いたいが、そうもいかない。 言ってしまえば、本当にそうしてしまう奴だから、二度と俺の目の前に 姿を現さなくなるだろう。 ――街のゴロツキとまた喧嘩でもしていたら、すぐに見つかるだろうが。 そんな俺の思惑も知らず、パティは欠伸や伸びをしながら、 暇だ眠い腹減ったの三語を繰り返しながら、俺についてきている。 歩き始めて、数分。何度も何度も尋ねてくるパティに気の無い返事をしながら、 俺は行き先の見当をつけた。俺も暇になったら、たまに行っていた場所だ。 妙な骨董品店に続いて、雑貨屋、服屋、閉まったスーパー。 珈琲がまずい喫茶店、また服屋。その次、煉瓦のアパートが角に見えたら、もうすぐだ。 右に曲がって少し行けば、健全に、健康的に遊べる場所が見えてくる。 「……公園……?」 まさか。 そんな表情をして、パティがまた聞いてきた。 聞かなくたって、わかるだろう。 ガキどもが休日の朝から遊び呆け、向かい合ったベンチで出来た会議室での マタニティ・レイディ達の語り合いに、芝生の上でいちゃつくカップルども。 ランニング・シャツを痩せ細った体に着せて、ご年配の方々は マラソンランナー気取りでいる。 アスレチック・パークよりもロークオリティの遊具に、 ドームよりは少し狭い、場末のライブハウスよりは広い広場が、広がって――… 「馬鹿じゃねぇの、お前。」 さらりと、言ってのけられた。 「そりゃ不正解の回答だな。俺が教師だったら一転もやらねえ所か十点はマイナスだ。 暇つぶしできる場所なんか、いくらでもあるじゃねーか。」 「あのなぁ…あたしは、その辺のガキや妊婦さんやジジイやババアじゃねぇんだぞ!? こんなトコで有意義な時間なんか過ごせるかっての。」 その辺のガキや妊婦さんやご年配の方々が、こちらに睨みを利かせてくる。 睨まれている当人は、そんなことにも気付かない様子で、むくれたツラをしていやがる。 本当に、周りの事を考えない奴だ。 少なくとも、『その辺のガキ』に含まれたって不思議じゃあないだろうと、俺は思った。 「それじゃあ一つ河原の方にでも歩こうじゃないか、Honey。」 「誰がハニーだアホ犬。」 とりあえずそれらの視線は気にしないように気にならないように、場所を移すことにした。 全く、世話のかかるガキだ。なんて考えていたら、後ろからはたき倒された。 尻尾を掴まれていたので転びはしなかったのだが、 代わりにちぎれるような痛みを伴った。 毛穴が痛い。ひでえ。絶対転んだ方がマシだった。 「河原つっても何も無ぇじゃん。ツマンネ。」 「何を言うか!草と木と水が少なからず存在するぞ。」 「…やっぱ、馬鹿だろお前。」 そういう発言だと分かって言っているから、特に問題は無い。 ――…しかし、本当に何も無いところだ。 ガキが二、三人川遊びをしているくらいの騒がしさに川のせせらぎ、 葉っぱや草が風邪で擦れる音が加わった位の、静かさ。 何かしていにと落ち着かないという性格はしていないのに、 今日は妙に目がさえているのか、『何も無い所』と言っておきながらも、 パティは何かすることを探すように、屈んで、単子葉類やら何やらいじっている。 こんなに広くて何も無い場所でやることといったら、俺達には一つだけだろうが。 俺は思いっ切り腹に息を吸い込んだ。 吐いて、吸って、吐いて、吸って。 横隔膜が広がったり、縮んだりするのがよく分かる。 吐いて、吸って。 「何やってんだ?ほと。」 見上げてきた。 吐いて、吸って。 「腹式呼吸。」 吐いて。雲に隠れていた太陽が、顔を覗かせた。 吸って。眩しいと思って、目を瞑って。 吐いて。風が吹きそうな、匂いがした。 吸って、吸って、吸って 「あおーーーんっ!!」 ――…吠えた。 これだ、これ。 自身と大地をゆるがす程のでかさの声で叫ぶと、 自然に両手に拳まで作っていて、手に汗握って、 活きているという、生きているという感じを味わえる。 腹だけは、減ったままだが。 一陣の風が通り過ぎたが、屈みこんだパティは 目を丸くして俺を見ているまま、何も喋らない。 そんなに見つめるなよBaby…、なんて言ったら、きっとどつかれるだろう。 風が一度やんだ頃、やっと二度目のまばたきをしてみせて、こう言った。 「何やってんだ?ほと。」 言ってる途中にもう一度、瞬きを。 「遠吠え。」 「…やっぱ、馬鹿だろ。」 「遠吠えくらい当たり前だ、なんてったって犬だからな。 お前もやらねぇ?気分が晴れるぞ。」 「やだよ。ただでさえ、腹減ってんのに。」 「じゃあ、唄うか?」 パティは、草の上で寝転がった。 俺は手に汗握ったままだ。 準備運動とばかりに、ぐ、ぱ、と握り開きしてみた。熱い。 喰わずとも、貯蓄されたエネルギーと俺様の心とが熱く燃え滾っている。 「余計、減るだろ。」 両足を組んで、両手は後頭部で組んで。 外に出ても結局、おやすみモードらしい。 「それじゃ、俺一人で唄ってるよ。さびしくな。」 冗談交じりにキュウンと声を出したら、鼻で笑われた。 「ヘイヘイ。」 やる気皆無のパティを放って、俺は唄い出した。 何を唄おうかとか、悩むの忘れてた。 口をついてするりと出てきたのは、最近俺達が好きになったばかりの歌。 俺が友達のCDを聞いて、俺の歌をパティが聴いて、 二人して気付けば口ずさんでたりする曲。 メロディーラインの高低差は激しくて、落ち着きが無い。 俺が唄ってるとシャウトになるはずの部分は、 眼下から吹き昇ってくる風に乗った声に、さらわれていった。 俺より少し高い声が、重なる。 「素直じゃねぇの。」 隣で赤毛を風になびかせるガキに、言ってやった。 「うるさいバカ。…唄いたく『なった』んだよ!」 二人して下手なボイスパーカッシヴを爽やかに披露した後、 同時に 大きく息を吸い込んだ。 メロディーラインの高低差は、激しかったり、大人しかったり。 まるで、俺達みたいだな?って言ったら、 一緒にすんなって、笑われた。 その日 俺達は結局、ランチを終えた後だったあの女豹に拾われて、 食い繋いで、なんとか一命を取り留めた。 晩飯も、食わせてもらった。 「アンタ達、ホント 野良犬と野良猫みたいだね。」 うるせぇ。どうせ俺は犬だ。 後になって思ったが、もっと人気の多い通りとかで、 空き缶でも足元に置いて唄えば、一食分くらい稼げたかもしれない。 そんなこんなで、あまりいつもと変わり映えしない、無一文の週末が終わった。 明日は、エマの世話にでもなってみようか。 そうすりゃまた、俺のところに飯をたかりに来るパティの気分を味わえる。 今度は、無一文の週初めだ。 ●――――――――――――――――――――――――● あとがき はいはい先生これまた始め考えてたものとは随分と変わってまーす。 変わった部分は、二人で唄う部分があまり重要視されてないところ。 そのせいでか、はじめは『stage of ground』が題名だったのに、 直訳『無一文の週末』が題名になってしまいました。いやん。 なんでこう日常的というか、なんてことない話しか書けないんでしょ。いやん。 それでも、やっぱり俺はほとぱてが好きなんだなあ、と思いました。 また公園かよ! 03.10.24. |
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