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…。 ……――。 ―――……B。 「起きろ、B」 今や聞き慣れた、友の声がした。 「…ン…?」 Bは、重たい瞼を、ゆっくりと開いた。 ビル風が冷たい。粉雪が、直接、鼻頭に乗っかった。 髪留めのほどけた金髪が、時計柱にもたれかかっている。 目を開いたそこには、バケツを脱いだ、黒髪・短髪の、浅黒い肌をした男がいた。 Mr.T.BONE、その人だ。 真ん丸い穴が二つ開いた紙袋を持って、彼女を覗き込んでいた。 思考の海を巡る中、意識はいつの間にか、夢の中に溶け込んでいたようだ。 文中で生前だとか、甦るだとか、蘇生だとか、そんな言葉を繰り返していたが―― そうだ、彼女達は一度、死んでいた。 Tが一番始めだった。その後、雪崩れるように、ギタリストとベーシストの兄妹もその命を絶った。 Bは、目頭が、夢の中の自分の身体のように熱くなっているのに気付いた。 彼女は、泣いていた。一筋、二筋の涙が、頬を伝って、留まらずに、綺麗な軌跡を作っていた。 夢とはいえ、あれらは事実、起こった出来事だった。 あまりにrealisticで、realityのある、realismな―― ――ああ。最低な、nightmareだった。 もう懲り懲りだ。 もう、絶対に嫌だ。 「…オイ?」 「…遅い……馬鹿」 Bの腕が、自分の首に回される。 Tは滅多に巡り合えないこの状況にどぎまぎした。 「…馬鹿」 繰り返し、耳元で、罵言を与えられる。 時計広場は、実は、二つあった。 それもどちらも役所の前にあるのに、役所をはさんで反対側にあり、見えないものだから、 Bは気付かなかったし、Tも気付くのに随分遅れた。 「………あったけェ…。」 うわごとのように、彼女は呟く。 小柄な身体は雪を被っている見た目の通り、とても冷たかった。 「お前が冷え過ぎてるんだ。」 それはあながち間違いともいえないが、彼が言う場合は、間違いともとれる。 TはB曰く『どんくさい筋肉ダルマ』なので(実際にそうなので)、体温が常時高いのだ。 大分動揺していた心は落ち着いたが、強く抱き締められていては、中々動けない。 それに、Bの肩は震えていた。 また泣いているのだろうと、よほどの悪夢を見たのだろうと、Tは勝手に解釈した。 それも、間違いとは言えなかった。 この小柄な、女性とは思えない女性が泣くこともまた、滅多に無いことだ。 動く気はしなかった。 そのまま二人ともしばらくそこで佇んでいたが、不意に、 頭上で、鐘が鳴った。電子音だった。 ガラー…ン 一。 ゴローン 二。 ガラーン 三。Tと、Bと、Qを合わせた数字だ。 ゴロー…ン 四。 ガラー…ン 五。Bの好きな数字だ。 ゴローン 六。 ガラー…ン 七。TとBが初めて出会ったときの、およその、Tの年だ。 ゴロー…ン 八。 カラー……ン 九度の、鐘の音。 時計の針は、午後九時を指し示していた。 粉雪はBが眠るまでよりも、やさしめな降り方になっている。 オプチミズム。楽天主義家の彼女が、呟く。 親友の体温に十分触れたからか、涙は止まっていた。 「T。お前遅れて来たんだから、このまま俺おぶってけよ」 「…そんな恥ずかしいマネが出来るか…。」 「この俺様を待たせといて、なんだその態度は? 寒いの苦手なんだぞ俺。何十年一緒に俺らと一緒にいるんだよ、分からねえのか? このくそ寒い中、俺は、二時間も待ってたんだぞ? そりゃ凍え死にそうだったさ。マッチ売りの少女みたいにな。 そんな俺に、お前は、1、2kmは先のレストランまで、歩けって言いたいんだな?」 「………ああ。分かった。」 「それでこそ俺様の下僕!」 Tを言いくるめてやって満足したBは、そのままTにおぶってもらい、道を進み始めた。 引き摺っていたギターショルダーも持ってもらった。 Tが持つと、地面につかない。 いつもTに持ってもらえば、何も無理に黒いギターショルダーを買わなくてもいいんじゃないのか? Bはなんとなく思ったが、言うのはやめておいた。 肉付いた手に、手袋が、すっぽりとはまっている。 マフラーが、風に揺れる。 胸に、Tの体温を感じる。 暖かかった。 気温が一桁よりも下にいっていようとも、少なくともBは、そう感じた。 幸せだった。 自分を夢から救い出してくれた彼の背に負われている。 道を大別したはずの彼が今ここで、歩いている。息をしている。生きている。 彼がそこにいるだけで、幸せだ。 この幸せを、自分から喋りだしては、壊しかねないような気がした。 何かを口にするのは、やめておいた。 いがいがの黒髪がくすぐったい。 長い金髪が、揺れ踊る。 「……そういえば、B」 不意に、声をかけられた。 「あン?なんだよ、人待たせプレイボーイコンチクショウ寒いよ早く歩け」 Bの目は、覚めていた。なんだかんだ言って、やはり寒い。眠れやしない。 Tはその寒さ故の饒舌ぶりに、一つだけ、笑いを含んだ溜め息を漏らした。 「…お前に…聞いてもらいたい曲があるんだが。」 「……ああ、奇遇だな。俺にも、一曲、あるんだよ、Happy Man! 今夜は、楽しもうぜ?Q兄貴は、いないけどさ。」 「…そうだな。Happy Girl。夜通し、楽しもう…――」 もう二度と、あんな夢は見ないだろう。 もう二度と、思い出さないだろう。 それに涙することも、ないだろう。 Happy happy day, もう、君を見失いことも、ないだろう。 そして、自分を失い、意識を落とし込むことも。 Happy happy life, ―――自分達が、自分達を、見失うことも。 Happy Man & Happy Girl they are feeling "Happy" . . . |
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