…。


「もうちょっと待て…頼む。…もうちょっとだ」


……。


「後ちょっと…後ちょっとでいい戦法が浮かびそうなんだが…」


………。


「…よし、決めた…これだ。喰らえ!ミラクル★ツーストスペシャル!」


「ソレ ババ。」


「あ?

…… があぁあぁああぁぁあ!!








_______________






ひなたくさいアナタ





_______________








巡り合っての出逢いは、日本で行われるという『ポップンパーティ』という宴に呼ばれたことから。





ピラミッドを、仲間と何百年と守り続けてきた。

パピルスは、仲間と違って、外に出たことの無い、外に出てはいけないとされた。
守りの要であるからだ。彼女がいなければ、邪気に対する楔は弱まってしまう。
王の眠る場所――…此処に住まう人間と動物と空気以外には知られない、
異次元の砂漠に聳える、ピラミッド。
昼と夜を何千回 空が繰り返しただろう。
パピルス―…ワタシは、太陽ガどんなモノで、星や月が何なのカ、知らなかったけれど。



「アンダーピラミッド守護精霊の長・パピルス。迎えに来た。」

このイキモノは、誰だろう。砂漠にいるという黒い虫にしては大きすぎるようだし、
ワタシ達と同じ、言葉を喋る。デザートウルフ?それも違った。
身に纏う衣服なども、見たことがない。屍体の肉の『青』という色や、
目の裏の『黒』という色をしている。
瞳の色は、そのイキモノの顔にかけられたモノで、見ることができない。
蟲でもなく、獣でもなく、仲間でもない。

それでは、まさか 人間だろうか。

ワタシは、人間を見た事が無かった。
ワタシは、自分と、仲間の精霊達以外のイキモノを、目にしたことが無かった。

「アナタは、人間?…どうしテ、入って来ラレたノ?」

「生憎 人間とはちょっと違うな。…俺はMZD。創造主だ。」

創造主。
それは、ワタシたちの祖を作り、ワタシたちの世を作り、理を作ったお方だ。

「お前を探すのには結構骨が折れたぞ。
自然の祠の中に異次元への出入り口があったとはな―
ま、それはそれでだ。ポップンパーティってのに出てみないか?」

「ポっぷん パーてぃ?」

「音の宴だ。お前の…仲間達には、もう了解を取ってある。」


――…仲間の気配を感じないのは 何故だろう。


「――…やつらは、この中や周辺の人間を守ることとかが、主な仕事だったからな。
もうこの異次元に人間がいないと言ったら…消えていったよ。」

人間が、イナイ。この創造主は全てを知っているのだろうと、私は感じた。長い耳が、ぴくりと動く。
…ああ。では仲間達は、死の天秤に掛けられるのを通り越して、無へと帰ったのだろう。
ワタシをよく世話してくれたヒエロ爺も、黄砂になったのだろう。

なんて、羨ましいんだろう。

ヒエロ爺やクリフ達は、この石の外を知って、色々な知識を持って、死んでいったのだ。
目の前の創造主に気取られぬよう―無駄なのだろう、けれど―、
心の中で、彼らに『おめでとう』と呟いた。
残ったのは、何も知らない、ワタシだけのようだ。

「…泣かないんだな。」

「…『泣ク』とは?…ワタシは、それヲ知りマセン。」

「…まあ、いい。パピルス。もう、此処を守る必要は無いし、お前が此処を守る義務も無い。
王の死体なんて、とっくの昔に風化しちまってるんだぜ?」

「…ソウ、なノ。」

「お前は外に出たことが無いんだってな。それで、頼まれた。
外の世界に連れて行ってやってくれ…ってな。」

「外へ?」

多分、それを言ったのは、ヒエロ爺ではないだろう、と思う。
彼はワタシによくしてくれたけれど、外に出ることは許さなかった。
ワタシ自身外に出たいと思っても、有言も、実行もしなかったけれど。

「…まあ、頼まれる前から連れてくつもりだったけどもよ」

先天の使命は無くなり、
仲間は黄砂に帰し、
ワタシは 自由というものになったのかな、と思った。

「ソレがどんナモノか、知らナイけレド。
…創造主は、ワタシを、『外』へ連れテ行ッテ下さルのですネ?」

「ああ。お前の仲間達の願いであり、俺の希望だからな。」

何千もの昼と、何億もの夜を過ごした世界に、ワタシを。

『太陽』の光のようなものが、ワタシの、あるかないか分からない心に、溢れた。

熱い砂に、この手で触れ、冷たい夜の砂に、蹲る。
そんな、素晴らしいことが出来るのだ。
『薄暗い』というこの石床の世界を出て、日と月と星と水の光の恵みを受けることが許されるのだ。
これほどの『喜び』という感情を、今までのワタシは知らなかった。
ワタシには、心があるようだ。


「創造主・MZD」


何も知らないワタシだが、神がそう望むならば。


宴の席にワタシは参らせて頂きます。



そしてワタシは、創造主に『外』へと連れ出してもらった。
暫く『眠って』いろ、といわれたので、『眠る』ということを教えてもらって、眠っていた。

そして、『起こして』頂いて、瞳を開く。
途端に、ワタシの後頭部にまで、白い閃光が走った。
なんと強い光。痛みまで伴って。ワタシは、頭の中までもが、一瞬 真っ白になった。
もう大丈夫だろうと言われ、瞳をもう一度開いた。


その喜びといったら、なかった。
それもそうだ、喜ぶということを、ワタシはそれまであまり知らなかったのだから。
だけど、喜ぶということをワタシが知っていたとしても、その喜びといったら、なかっただろう。

一面に広がる黄砂は、ヒエロ爺がたまに小壺に入れてきてくれたものと同じとは、思えなかった。

なんて、広いんだろう。

『水平線』が見える。

遠くに、『駱駝』というイキモノがいた。

なんて、広いんだろう。

『空』が見える。

真っ白な光を、初めて見た。ランプの火の光は橙色。

『太陽』が…見える。眩しかった。

そこで初めて、太陽の匂いを覚えた。
『ひなたくさい』と表すのだと、創造主は仰った。




――…そして、『ポップンパーティ』なる宴の行われる日本に連れて来られた。


様々な人間を見た。様々な生き物を見た。
様々な物を見た。様々な感情を覚えた。


そんな、知識の海の中、彼は存在していた。ワタシは、それを見つけた。


―いや、見つけられたと言うのだろうか?
そのときワタシは、突然、彼に抱き上げられた。


「可愛いな、お前。」


『可愛い』という言葉は創造主も仰っていたが、
ワタシには意味が分からなかった。
創造主にお尋ねしても、明確な答えは得られなかった。


その人間は短く白い髪をしていて、クリフのように、白いカフィーヤを被っていた。
活発な人間なのだろう。止め具の輪を頭に嵌めている。
ラジョル…男の人だ。身体的特徴を観察してきたから分かった。

そうやってその人間を目にするよりも先に、感じたことがあった。



『ひなたくさい』。
ワタシが外の世界で、初めて覚えた香り。



「ツースト君、団体行動乱さないでー?」

違う人間の声がした。平たい帽子を被った、男の人だ。

「ああ。……一緒に来るか?」

ワタシは、その言葉を二、三度反芻した後、返事をした。
彼は、ワタシが喋ったことに、とても驚いていた。





そして、そして、そして―…
ワタシは今、こうして、彼・ツースト、その仲間であるウーノ、若、フォースと、
カードゲーム『ババ抜き』に興じている所なのだ。
高層マンションの最上階であるこの部屋はとても広くて、
ワタシの居場所がどこにでもある。
あの日ツーストに連れられて、一緒にポップンパーティに出たり、
『打ち上げ』に参加したりして、ワタシはここに住んでいる。
彼ら四人は総称・ミラクル★4といい、『アイドルグループ』なのだという。
それを知らないと言ったとき、その長であるというウーノは落ち込んでいた。

「「ハイ、ツースト君の負け」」

「パピーもウーノもうっせェ!」

勝負が終わった後、ツーストはご機嫌斜めだ。
ツーストはカードゲームに弱いわけではないが、
ただ、今日は苛々していたから、仕方ない。
この場合、『気が逸ってしまった』という表現が相応しいと思う。

その原因は、ワタシにあった。
始めは知らないことばかりで慣れない生活だったが、
落ち着いた今、昔を思い出していた。
過去に思いを馳せ、彼の呼びかけに気がつかなかった。
ツーストの機嫌が悪くなったのは、そのときからだ。
――…彼は、一人でカレー・ナンを食べた。

カードの山札を整えながら、絨毯の上に寝転がっている、テーブルの向こうの彼の様子を伺ってみる。
無意識に音にも機敏になって、ワタシの長い耳はピクピクと動いた。
その表情は、ふてくされていることだろう。Tシャツの裾から覗く背中を隠そうともせずに、
TVも見ずに、ただそこで頬杖をついて、寝転がっている。

パピーというのはワタシの愛称だ。彼がつけてくれた、字。


ウーノ君や、若君や、フォース君もそうだが、彼はワタシに沢山のことを教えてくれた。
『ストロー』は美味しくないことや、ナンの作り方。
『唄い方』に、この家の『鍵』のある場所に、ウーノ君の『へそくり』のある場所。
『包丁』の使い方や、素振りの仕方、『機械』というもの、『芸能界』について。
『珈琲』の、彼にとっての美味しい入れ方に、『トースト』の焼き方に―…
数え切れないほどの知恵達に加えて ツースト自身のことも。
そして彼は、ワタシに、ワタシのことも教えてくれた。
哀しくなると耳が垂れることや、嬉しくなると知らない内に踊っていることや、
嬉しくなるとにっこりと笑えることや、いろんな感情を持っていたワタシのことを―

また考え事に耽ってしまっていた。山札が崩れてしまった。
だけどそれを片付けるよりも先に、ワタシはツーストの背中に飛びついてみせる。

「…なんだよ?」

不機嫌そうな声。

「何モ。」

用事も使命も無く、ただワタシがそうしたかっただけだ。


けれど、これは、ワタシが初めて自分自身で編み出した、方法。



「…しよーがねーなぁ。」

ツーストはククッと可笑しそうに笑ってから、ワタシを抱き上げて、抱きすくめた。
あったかいカーペットの温度に、ツーストの体温の相乗効果は、温か過ぎる。
ワタシは『眉根』を寄せた。

「ツースト、熱い。」

「知るか。」

悪戯っぽい笑みを彼は浮かべて、余計に力をこめて、ワタシを抱きしめた。


ツーストの機嫌が少し悪いときや、ワタシによって悪いときは、ワタシがこうしてあげれば
彼のご機嫌はよくなるのだ。
理由は知らないけれど、知りたいと思う。




ひなたくさいアナタの匂いが、
今夜の献立・パンプキンスープの香りを押し退けて、ワタシの思考を支配する。



「相変わらず単純ですね、ツーストさん。」

「パピーがいて助かるよなっ、ツーストの奴馬鹿みたいに機嫌壊しやすいし!
…いいなあ。俺もパピーにあんな風にされたい…。」

「ああ、いいね。種族間を越えた愛の語らい、ストロベリートーク…
生憎と今夜の主食はカボチャだけどね。」




ミラクル★4の、ツースト以外の声がするけれど、今のワタシの耳には入らない。




ワタシの口は、彼のために言葉を紡ぐ。

ワタシの目は、彼を追う。

ワタシの鼻は、太陽の匂いを探して。

ワタシの耳は、彼の音を聞き取って。


―ツーストのくれた、白い、ガラベーヤ。 ツーストの香り―


彼のひなたくさい、太陽の匂い。ワタシの嗅覚を支配する。

彼の息遣いと鼓動と声と歌。ワタシの聴力を支配する。

彼の仕種とご機嫌。ワタシの視界を支配する。

彼のカラダ。ワタシの触感を支配する。

彼。ワタシを、支配する。



彼は ワタシの 全てを―







「パピルス。俺、やっぱりお前のこと すげえ大好きみたいだな。」







ひなたくさいアナタの全ては、



甘い



ワタシにとって



甘い、甘い、





――永遠の、愛の媚薬。















●――――――――――――――――――――――――●
あとがき

ツーパピです。



引くなそこ。頼む。頼みます。引かないでいやんああん。



一部ではメジャーだと知ってとても感動中の杜真ですこんばんわ。
でも一部では、なのでマイナーですな。ガクリ。
取り合えずそういうことを知る前からエジプト繋がりだなんだと
ひそかに好きでしたツーパピ。うへへ。
メジャーな方々のおかげで大分イメージが固まったので
懐であっためてた話を一気に書き上げてみました。うふふ。
コンセプトはゲロ甘です。ゲロとまではいきませんが甘めですな。ああん。

でもなんか変です。






















逝って来ます。






六ヤドとか神ペペとかツーパピとか。世の中捨てたもんじゃない!(…。) 26ゥさんとかばんじゃーい!

03.10.19.



















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