++ それぞれの夜(藤堂平助の場合)++
明りを灯すことさえ忘れたような、漆黒の闇に包まれた部屋。
ぴんと張りつめた空気の中、山南が切腹した方角に向かって藤堂は正座していた。
頬を流れ落ちる涙はとどまることを知らず、指の節が血の気を失うほどに拳を握りしめていたけれど。
不気味なほどに、しんと静まり返ったこの夜には、音というものが存在しなかった。
果てしなく深い闇と静寂とが彼を包み、底の見えない孤独が彼の心に爪をたてる。
―――畜生、畜生、畜生・・・・・
我を忘れて怒っていれば、いつも困ったように笑って山南は言った。
「平助、少し落ち着け」と・・・。
あの顔も、あの声も・・・あの人はもう、どこにも居ないのだ。
―――ちくしょう・・・・・・
噛みしめた唇が裂けて、鉄の味が広がる。
何度も何度も繰り返す呪詛の言葉。他に呟く言葉を知らなくて。
―――いいんだよ、平助。
あの人は、きっとそう言って笑うだろう。
―――私も、己の信じる道を曲げなかった。
逃げる事など考えていなかったし、それを誇りに思ってもいる。
だから平助、誰も恨んじゃいけないよ・・・。
言いそうな事だって、ちゃんとわかる。
だけどそんな事が一体何になるんだろう!!
そんな事で、あの人が戻ってくる筈もないのに・・・
溢れてゆく涙が乾く時、きっと自分は悟るのだろう。
楽しかった日々は、もう終わったのだと。
共に歩いていた仲間たちは、道を違えてしまったのだ・・・と。
そして、頑なに己の道を貫くために・・・若者は歩き出すのだろう。
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