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頭の芯が痺れて熱い・・・。どこかでさらさらと桜の枝が鳴っている。 夢うつつの中、手放しそうになる意識を、惚三郎は必死に手繰る。 胸に冷たい風が触れる。・・・自分は着物を着ていなかったのだろうか? ・・・ああ、そうだ・・・と、惚三郎は満足気な笑みを口元に浮かべた。 今、自分がかき抱いているのは、身を捩るほどに恋焦がれていた、 あの・・・沖田総司なのだ。 瞳を閉じたままの沖田の額にくちづけ、あらわになった素肌に指を滑らせる。 半開きの口を僅かに震わせて応える沖田の肌からは、想像通りひなたの匂いがした。 ―――この人に・・・この人のような存在になりたかった。 なれぬのならばせめて、この人が・・・欲しい・・・――― 惚三郎の内で激しい情念の炎が燃え上がった。 頭の芯は相変わらず甘く痺れたまま・・・背筋をのぼって四肢を満たす悦び。 焦れるように身体をくねらせて、惚三郎はぐったりとしたままの沖田を責める。 荒くなる沖田の息遣い、全身を駆け抜けるえもいわれぬ痺れに、惚三郎は幾度となく果てた。 ・・・腹のあたりでぬめるのは、沖田のものなのか自分のものなのか・・・ 指先で拭う生暖かい体液の感触が、再び惚三郎の欲望を刺激する。 他人の生き血と悦楽に彩られた禍々しい人生。望むと望まないに関わらず、それが惚三郎に許されたただ一つの道だった。 男達に望まれ蹂躙され自らもその欲の中に溺れてゆく、毒々しい血の色に象徴されるような地獄の道。それにひきかえ、あの人は一体なんだというのだろうか・・・。 人斬り集団の中にいて、最も剣技に優れるといわれる天才剣士。 その武勇伝はとどまるところを知らず、殺した者の数を数えることもできないだろう。 なのに・・・あの人の身体からは血の匂いがしない。荒くれ男達から愛されながらも、 蹂躙されることも欲望のままに弄ばれることもない。 同じものを持つ、同類である筈のあの人を包むのは光・・・ 道を彩るのは清らかな純白。 沖田になりたかったのか、あるいはなれなかった沖田を汚して同じ道に引きずりこみたかったのか・・・既にそんな事は惚三郎にはわからない。 ただひたすら、昂る情念を目の前にいるひなたの匂いのする青年にぶつけるだけだ。 どれほどの時間が経ったのだろうか。 惚三郎にはいくつかの夜が過ぎたようにも思われたし、あるいは一瞬の事だったのかもしれない。 ・・・身体にともった炎が全身を激しく燃やし尽くしていくように、 惚三郎の意識はゆっくりと闇に飲み込まれていった・・・。 ―――今際の際に、よい夢でも見れましたか・・・?――― 幻を打ち消すように、どさりと河原に倒れた惚三郎の亡骸に、穏やかな沖田の声が降る。 気がつけばそこは鴨川のほとり、向こうには息絶えた田代の骸が転がっている。 惚三郎が抱いた沖田は幻だったのか・・・。 どこかで桜の枝が、風にそよいでさわさわと鳴っていた。 「あなたに落ち度はなかった・・・。 自ら望んだわけではないのだろうけど、あなたは新撰組の鉄則を歪めてしまった。 近藤さんや、土方さんまでがあなたのために判断を鈍らせてしまうほどに・・・。 可哀想だけれど、あなたはここに来てはいけない人だったんです。 いや・・・もしかしたら、私達の狂気が引きずり込んだだけで あなたはただ、無意識に自分を殺してくれる人を探していただけなのかな・・・。」 息ひとつ乱さず、刀についた鮮血を懐紙でぬぐうと手慣れた仕草で鞘におさめる。 惚三郎は、肩から胸にかけての一撃、そして身体をひねったところで 頭蓋から背中にかけて一撃・・・たったの二太刀でこときれている。 その死に顔は穏やかな笑みをたたえており・・・まるで永年の想いを遂げた者のようだった。 静かに傍らに膝をつくと、沖田は惚三郎のまぶたをそっと閉じてやる。 「あなたを縛るものは、もう何ひとつない。 さぁ・・・お行きなさい、あなたが本当に望むところへ。 ・・・あなたは歪んでいたけれど、きっと狂ってなどいなかった。 狂っていたとすれば・・・ それは、あなたの魔性にも揺るぐ事がなかった私の方なのかもしれない。」 寂しそうに笑うと、何事もなかったような軽い足取りで 沖田は今来たばかりの小道を戻っていった。 彼の戻る先は、人斬りとしての狂気を宿し、衆道などと呼ばれるものよりも遥かに堅い・・・生命をかけた絆を持つ人斬り集団、新撰組。 何が正常で何が狂っているのか・・・それはもう、誰にもわからない。 (終) |
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