++ それぞれの夜(沖田総司の場合)++
―――しん、と静まりかえった吸い込まれそうな新月の夜。
そろそろ春の声がきこえるとはいえ、夜はまだ寒い。羽織りを着込んだ沖田総司は、足をぶらぶらさせながら縁側で座っている。
手にしているのは名刀菊一文字。人を斬るためには使わないと、行李の肥にしてしまった逸品だ。
花の都にはもののけが棲みついているという。
あやかしならば、斬れるのだろうか。
雲の合間から僅かに夜を彩る星を見上げ、沖田はそおっと白い息を吐いた。
閉じた襖の向こうでギリ、と歯を軋ませる音がする。
・・・沖田は何も言わない。
何も聞こえなかったかのように、闇を見上げて白い息を吐く。
昼間・・・、裏手の白州で山南の切腹が行われた。厳しい隊の規律に触れ、脱隊を試みたかどによる懲罰だった。
涙ながらに山南の助命を求める同志達の声もあったが、・・・部屋の主はそれを赦さなかった。
自らの腹に刃をたてた山南の背後できらりと沖田の刀が光り、一呼吸おいて、鮮血に染まった白州に、山南だった者の首が転がり落ちる。
仕方のない事だと誰もが口では言うが、処刑の後は皆一様に口を閉ざした。
極力誰とも目を合わせないよう俯く者たちの目に浮かぶのは、畏怖、憐憫、そして恨み・・・そんなものなのだろうか。
襖を隔てたあちらから、時折寝返りをうつ衣擦れの音がする。
―――沖田に介錯を命じた土方もまた、そこで眠れぬ時を過ごしているのだ。
「今夜ばかりは、どんな者であろうとあの人の眠りを妨げちゃぁいけません。
例えそれがあやかしや悪霊の類いであっても・・・
あるいは山南さん、貴方の怨念であったとしても・・・
今夜ばかりは・・・、わたしが許しません。」
穏やかな微笑を浮かべながら、沖田は夜を見上げたまま静かに言った。
その言葉は誰かの耳に届いたのだろうか・・・
応える声はない。やがて、物音も止んだ。
・・・静まり返る暗闇の中、沖田は天を見上げ・・・祈るように白い息を吐く。
|
|