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初夏――― とはいえ、京は暑い。 早くも一番蝉が鳴く中、鳴り響く大砲三発。 「斉藤さんの、そういうところ・・・私は好きだなあ。」 そう言われた塔の本人は、額を撫でつつ苦笑した。 普段は物静かな斉藤一だったが、どういう訳か嚔(くしゃみ)だけは派手で、 しかも決まって立て続けに三回でる。 たれが言ったのか、{大砲}などと陰口をたたかれているのを本人も知っている。 この時もきっかり三回・・・しかも三回目に勢い余って井戸の雨よけの柱に勢いよく額をぶつけてしまったのだ。その音を入れて、今日の大砲は四発。 隣で体を拭いている沖田が、童のような顔で見ている。 「いたた。」 「ふふ・・・」 「笑い事じゃない程、いたいんだけどなあ。」 沖田は少し背の高い斉藤の肩を沈ませ、どれ?とのぞき込みむ。 「少し、血が滲んでますね・・・それに・・・」 「・・・?」 「大きな瘤が・・・ふふ、ふふふ。」 「まいったな・・・」 「目を閉じてもらえますか?洗ってあげますから。」 不思議に思いながら目を閉じると、沖田の両手がこめかみを包むのを感じた。 一寸の間をおき、額の傷の上に妙な感触を感じる。 井戸水で冷えた顔は、その暖かい湿った感触を過剰にとらえた。 驚いて目を開ける。 間近に起きたの顎が見え、斉藤は何が起こっているのか理解した。 酷く狼狽し、それでも身動き出来ない。何故か体が火照り、息苦しくなる。 自分に衆道のケはない。それは間違いないのだが・・・・ 沖田の舌で洗われている傷が少しだけ痛み、我に返ると急いで突き放した。 考えてみれば道場でかいた汗を流すため、井戸端で裸になっている男二人、 このような姿勢でいるところをたれかに見られてはたまったものではない。 「あ、痛みました?」 まったく気にした様子もなく、沖田はにこにこしている。 「大したことはないから・・その・・・よしてくれ。」 「じゃあ・・・私はこれで。午後は巡回があるので先に失礼しますね。」 服を抱えて井戸を離れる。二、三歩で立ち止まり、振り向くと沖田は言った。 「斉藤さん、すごく緊張してましたけど・・・・私のせいですかね。」 「・・・・・」 返答する前に、沖田は去っていった。 その日の夜――― どうやら風邪を退いたらしい斉藤は、寒気が酷いと見回りも変わってもらい、 かび臭い布団部屋の奥へ引きこもった。 風邪が感染るからと、他の者を遠ざけてはみたが、段々と怠さを増す手足は、 水を取るのも億劫で不便極まりない。小者でも側に置いておけばよかったと後悔してもはじまらぬ。さっさと寝てしまうに限るのだ。 格子の窓から見える月だけが妙に浮いていた。 寝入るかどうかという頃・・・すうっと襖が開いた。 斉藤は気付きもしない。殺気をおびた刺客であれば、すぐに気がつこうものだが。 「やはり・・・薬も飲んでいない。駄目だなあ。」 ―――沖田君か・・・・――― 斉藤が身じろぎもしないのを寝ていると思ったか、 沖田は斉藤の布団を剥ぎ上半身を起こさせた。 自らの口に苦い薬と水を含み、斉藤の口に押しあてた。 驚いて噎せる。かあ、と耳が熱くなるのを感じた。 「・・・っ・・・けほ・・・むむむ。」 「大丈夫ですか?ちゃんと薬ものまんといけませんよ。 何日も寝ているわけにもいかないんですから・・・・・」 「わかるよ。明日にはちゃんと起きれる。心配ない。」 「着いていてあげますから、寝てくださいね。」 「それはいかん、沖田君。風邪がうつ・・・な、なにを?」 沖田は平然と着物を脱ぎ、上だけ白い肌を出した。 呆然としている斉藤の着物も割ると、その間に入り込むように床に入った。 別に他意はないのだろう、沖田は暖かいかと聞いて笑う。 この男はこうなのだ。なにもかも雲のようで水のようでつかみ所がない。 そのぶん、からかわれているようにも受け取れるのだ。だんだん腹が立ってくる。 動悸が激しい自分になのか、背に手を回してくる この男になのか・・・無性に苛立つ。 「よせ、沖田君。俺はどうもおかしい。熱のせいかもしれん。」 斉藤が何をいいたいのか察し、それでもにこにこしている。 「何もしやしませんよ。寝てください。」 「そうじゃなくて・・・!!」 今まで動けなかったのが嘘のように乱暴にのし掛かり、斉藤は沖田の唇を吸った。 沖田の見開いた目を見て更に逆上する。自分がここまで追い込んだくせに今更なんだという気持ちだ。腹立ち紛れに二、三度頬を張り、着物の裾をまくり上げた。 「や、やめて下さい斉藤さん・・!!」 「君は痛い目に遭わなければわからんらしい。 ・・・人を引っかき回して楽しいか、沖田君。」 斉藤は手拭いを沖田の口に詰め、うつ伏せさせた。 必死に藻掻く沖田。だが、一回り体の大きい斉藤をはね除けるのは無理な事だ。 熱に煽られ、斉藤は泣いて呻く沖田の腰をなんども引き寄せ、己をぶつけた。 「う、う、う」 沖田の白い背に髪がはりつき、最後まで力を緩めない斉藤の折檻に、赤い血が滴りだした。着物も布団も滅茶苦茶にして、斉藤は一晩中沖田を犯し続けた。 斉藤はいつのまにか眠ってしまっていたらしく、 気がついた時は明け方近くになっていた。 汗は全部拭き取ってあり、着物もちゃんと着ている。 そして沖田は部屋にいなかった。 昨夜の狂乱ぶり・・・夢か何かと思いはしたが、微かに残る血のにおいに 紛れもない現実と知る。 ―――酷いことをした・・・・・でも彼はもうああいった悪戯はしまい ・・・・苦い薬を飲んだと、そう思うのだな・・・――― 幾分、具合の良くなった体を起こし、布団部屋を出る。 既に起き出した平隊士達が掃除など始めている。 「おはようございます斉藤さん。」 そのいつもと変わらぬ声にギョッとして、斉藤は振り返った。 「沖田・・・くん。」 「はい?」 「・・・・・・・・・」 「良くなったみたいですね、よかった。 私の看病のおかげですかね。なに買ってもらおう。」 斉藤は、悪びれない沖田に半ば呆れかけて言った。 「・・・君は・・・まったく懲りてないんだね?」 「懲りました、懲りました。もうごめんですよ斉藤さん。」 遠くで誰かが沖田を呼んだ。 「・・・じゃ、行きますね。」 「ああ。礼だけは言っておかなくちゃな。世話かけました。」 「いんですよ、そんなの。」 「・・・・俺のしたこと・・・怒ってはいないんですか?」 「怒ってませんよ。あ、でも・・・土方さんには内緒にしておいてあげますね。 斉藤さん、切腹させられちゃいますから。」 「・・・え・・・」 引き留めようとした斉藤に笑いかけ、沖田はそのまま去っていってしまった。 後に残された斉藤に、通りすがり隊士達が挨拶していく。 「あの二人・・・そういう仲なのかなあ・・・・・」 何となく触れた額には、驚くほど大きな瘤が威張っていた。 終わり |
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