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「ああ、あの花・・・りんどうって言うのでしょう?」 うららかな小春日和の散歩道。沖田総司は、連れの顔を見上げると 嬉しそうに道ばたにしゃがみこんだ。 大の男としてあんまりに子供っぽいその仕草に思わず苦笑を漏らすのは、 泣く子も黙ると京の町で噂される新撰組の鬼副長、土方歳三だ。 「これって、秋に咲く花じゃありませんでした? ・・・この御時世に、狂い咲きでしょうかねぇ。」 のんびり笑う沖田に、土方は興味なさげに呟き返す。 「おめぇが花になんか興味があるとは知らなかったぜ。 そいつは根を煎じて飲むと胃腸によく効くんだ。」 「さすが元薬売り、いろいろ知ってるんですねぇ」 くすくすと笑って沖田は立ち上がった。 「そういえば、昔、腹が痛いってこぼしたら 土方さんがりんどうの根を煎じてくれたじゃないですか。 そりゃぁもう苦くて酷い味だったから、あれから土方さんの前では 絶対に腹が痛いって言わないと心に誓ったもんですよ。」 「・・・苦ぇ薬は良く効くんだ。」 顔をしかめて、土方はすたすたと早足で歩き出す。 慌てて小走りに追い掛ける沖田は、まだおしゃべりをやめない。 「りんどうって、蓮やなんかと同じで朝早くに咲くんですってね。 蕾が花開くところを見るなら、暗いうちから見張ってないといけないと 山南さんに教わりました。」 「へぇ・・・」 「なんか、土方さんみたいな花ですよね。」 「・・・はぁ?」 あっけらかんと笑う沖田の言葉に、思わず足を止めてしまう。 ようやく足を止めた土方に、沖田は満足そうに微笑した。 それが目的か、と軽く鼻を鳴らして再び歩き始めた土方の背に、 沖田はまだ話し続ける。 とりあえず返事は返ってこなくても気にならぬらしい。 「ほら、朝顔も紫陽花も・・・花って人の方を向いて咲くものが多いでしょう? なのに、りんどうは強情なくらいツンと上を向いて・・・ そのうえ咲いてもこれっぽっちしか開かない秘密主義。 ほら、つむじ曲りの土方さんみたいじゃないですか。」 「莫迦。花ってのは女に例えてやるもんだよ。」 「それにね、何が似てるって・・・ばかみたいに苦いところ、なんだな。 あ・・・でも、それじゃ花じゃないか。」 悪びれもなくケラケラと笑う若者に、思わず土方は脱力する。 沖田のこういうところが、良いところであり、また悪いところでもあると思う。 とにかく、この若者の満面の笑みには弱いのだ。 これが相手では、気色悪いと言って一喝することもできない。 わけのわからない事態に陥る前に、土方は話を切り上げることにした。 帰れば、くだらない話で大騒ぎする連中が山のようにいるのだ。 「あーあーわかった、わかった。 似ててかまわねぇから、屯所の連中には余計な事言うな。 そりゃぁ、おめぇの胸だけにしまっとけ。いいな?」 「いいですよ。鬼の副長が花みたいだなんて言われたら、格好がつきませんもんね。 でもね、土方さんは百合みたいだって言う人もいましたよ。 ホラ、百合って匂いがすごいじゃないですか? それなら鬼百合だ、とか・・・毒があるから鈴蘭じゃないかって言う人も。 わたしは、りんどうを推したんですけどねぇ、みなそれぞれ一論あるようで。 あー、あの論議はみんな盛り上がって楽しかったなぁ。」 「・・・・・・・・・。」 泣く子も黙る新撰組の鬼副長土方歳三。どうやらこの陽気な若造におちょくられている事に気付いたのは、ようやくこの時であった。 (終) |
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