ここではない何処かにある世界
我々の尺度で言えば中世程度の文明を持つその世界では
いまも剣と勇気と知恵が己の道を切り開く。
そして、魔法の力が・・・




ファンタジー大河ロマン小説

「貞皇」


オリジナルストーリー: アレンジ・テキスト:みのさん



旅立ち [1]



 その日の目覚めは、すがすがしい朝の日差しと小鳥の囀りによって迎えられるとても心地の良いも

の・・・とはいかなかった。 鉄の扉の様に重いまぶたをやっとの思いで開いた時、すでに日は高く昇ってい

て、開いた窓からは蒸し暑い空気が流れこんできていた。その暑さが気分の悪さに拍車をかける。ただで

さえ二日酔いのせいで頭が割れる様に痛いというのに・・・。とにかく冷たい水が欲しかったが、動くと胃の

中のものが全部出てきそうだった。 しばらくそうして仮死状態のままベッドの上で身動きできずにいると、

この惨状の根源がやってきた。

「おい!貞皇!!起きろやっ!! いつまで寝とんねん!!」

けたたましくドアを叩く音とともに甲高い西方訛りの声が響いた。頭の内側で盛大に鐘を打ち鳴らされた

気分だ。

「うぅ〜〜、や、やめれ〜〜」

オレはどなりかえすこともできず少女の様なか細い声をもらして身悶えた。

「入るで〜!」

声の主がドアを開けて入ってきた。

(最初っからそうして入って来いや!!こんな時に律義にノックなんぞするなアホぉ!!)

心の中でそう叫ん だが、現実のオレは、やつれて老人の様な表情でボソボソとつぶやいた。

「た、たのむからう、うるさくしないでくれ・・・」

「あぁ!? 声が小さくて聞こえへんがな! もっとシャキシャキしゃべれや!」

声の主は相変わらずデカい声でそうのたまった。

(・・・・・し、死にてぇ・・・。だがその前にこいつだけは絶対殺す!)

遠のく意識の中おれはそう強く誓った。



 オレの名は貞皇。S級犯罪者(サプリーム)として広く指名手配されている極悪人だ。法の執行者である

刑士団に常に追われる日々を過ごしている。主な罪名は殺人・強盗。まあもっともそれはあくまで向こうの

言い分にすぎない。確かにオレは善人とは到底言えないが、この世界のルールを思うままにあやつって

いるヤツラ(刑士団)こそが本当の諸悪の根源だってことは、とっくに皆気付いてる。だが強大な権力を手

中にするヤツらを敵にまわす様なバカは・・・、おれとおれの仲間くらいのもんだってことだ。



 日暮れ頃におれは再び目を覚ました。 いつの間にかまた寝てしまったらしい。 田郎が部屋に来た所ま

では覚えているがいつの間に眠ってしまったのか思い出せなかった。 (だいぶマシになったが、まだ頭が

ズキズキしやがるぜ・・・) 全身のだるさは取れていなかったが、オレは思い切ってベッドから起きだし、ふ

らつく足取りでドアを開け部屋を出た。オレたちは昨日この宿に泊まり、夜通し酒を飲んで騒いだ。オレた

ち自身の旅立ちを祝ってのことだ。予定では今日の正午には船に搭乗して、いま居るこの島から 離れ大

陸へと向かうハズだったのだが・・・ 実際は日がほとんど落ちかけているいまでもこうしてまだここに居る

わけだ・・・ 隣の田郎の部屋をのぞいたが居なかったので、そのままふらふらと階下へと降りていった。居

ないことがわかりきっていたので明の部屋は敢えて見なかった。 この建物は2階建てで、一階は酒場に

なっていて、二階には本来は旅行者に貸すための個室が数部屋用意されている。要は飲み屋が兼業で

宿屋もやっているわけだ。 本来はと言ったが、そもそもここは大陸から遠く離れた孤島で、訪れる旅行者

など実際それほど居るわけではない。 だから普段はもっぱら、下(階下)の酒場でどうしようもないほど酔

い潰れて家に帰れなくなったのんべえどもをうえ(二階)で一晩寝かせるなんてこともよくある。それほど商

売にシビアでないこういう田舎ならではの話だ。

(この島に来た時は、またあの場所へ戻るなんて考えもしなかったな・・・)

階段を降りきると雑然とした雰囲気に包まれた。仕事を終えて一杯ひっかけに来た男たちの熱気に溢れ

ている。ちらほら女性や子供の姿も見えた。店の娘はおおいそがしで皿とジョッキを運んでいる。 そんな

風景の 中に一人葉巻の煙をくゆらせている田郎の姿があった。おれはテーブルに近付いていき、黙って

この相棒の前に腰を降ろした。こいつの名は田郎。頼りになるおれの相棒だ。どデカイグレートソードを武

器におれと共に刑士どもをブッタ斬り、汚い金をため込んだ金持ちどもから盗みつづけ、S級犯罪者貞皇

の協力者としてこいつも悪名高い。もう仲間になって数年経つが、おれと出会う以前は砂漠の盗賊団の

首領だったらしい。ただ本人があまり語りたがらないため過去のことはあまりしらない。ややあって田郎が

口を開いた。

「・・・お前のせいで船にのりそこなったやんけ」

「・・・しょうがねえだろ〜〜、お前らがしっかりおれを見張ってればこんなことにゃあならなかったんだよ・・・」

「ったく、お前は酒弱いくせにいっつも正体失うまで飲みつづけよる。しかも暴走しだしたらおれらにも手におえんし・・・マジでそのクセなんとかせんかい!!」

「バッ・・・、何言ってんだぁ!?この野郎! いつも一番最初にできあがって暴走しだすのはおめーだろ!! 昨日の晩だってなあ、お前が執拗に勧めてくるから・・・」

「なんやとコラッ!なに人のせいにしとんねんッーー!!」

御互いに立ち上がって胸倉をつかみ合った瞬間、周囲の客たちはオレたちに注目し、やれやれと喧嘩を

煽りはじめた。 客はほとんどが地元の血気盛んな漁師たちで、モメ事は酒に次いで好物という連中なの

だ。「やれ、ぶちのめせ!」「金玉蹴り上げろ!」 口々に叫び、けしかける。 オレはこの機会に昼間の復

讐をしてやろうかと思ったが・・・。

「あんたら喧嘩なら外でやりな!迷惑だった らありゃしないよ!他のお客さんもけしかけるんならもうお酒は出さないからね!!」

この店のおかみさんがたまりかねてカウンターから出てきて一喝した。 客の男達の声が止み、酒場は静

まり返った。みなこのきもったま母さんの迫力に飲まれてしまったようだ。ふだんはきっぷのいいきさくな

奥さんだが、怒らせると本当に恐いので有名だった。おれもこのでっぷりふとった50がらみの女性の風

格にのまれ、へなへなと座り込んでしまった。田郎も同様に座った。 事が収まったのを見て、おかみさん

は鼻をならし、大きな尻を揺らしながらカウンターへと戻った。騒ぎを聞いて心配そうに厨房から顔を出し

ていた気の弱い旦那も彼女にどやされて仕事場へと戻った。

「・・・まあ、済んだことはしゃあないとして・・・」

しばらく御互い沈黙していたが、田郎の方が口を開いた。

「どないする?次の大陸行きが来るまで一週間はあるで・・・」

そうなのだ。島の外ヘ行ける船は週に一度しか来ない。船を逃してしまえばまた当分待つことになるの

だ。

「ん〜〜、どうすっかな〜〜。・・・所で明はどこに行った?」

「あいつがずっとおとなしく人が起きるまで待つなんてできるわけないからな あ、カラダ動かしてくる言うてどっか言ってもうた」

明は筋肉だけが生きがいといった男で、年中無休でカラダを鍛えまくっている。おとなしく自室にいる日は

皆無だ。 おそらくいまもどこかで筋トレの最中だろう。

「しょうがねえ、おれが探してくる。なんだかんだ言ってここにとどまるのはおれの責任だからな」

そう言うとおれは席を立ち、店を出た。日はほとんど沈みかけだった。

「さてと・・・。あいつのことだからたぶん森にでも居るんだろうな・・・」

おれは夜道を街外れの方に向かって歩いて行った


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